プチ春劇場:「あなた自身の天使のために」:第11話
学祭は二日目の体育際になった。各クラス対抗で行われたが今日はかおりと昭平が欠席。
昼休みに純子がかおりに電話をかけた
純子:どう?
かおり:ゴメンね。いきなり昭平にあんなこと言われて
今日どんな顔して会えばいいのかわからなくなっちゃって、、休んじゃった
純子:あいつも今日まだ見てないから休んだんじゃないかな
かおり:・・・ねえ、私っわがままかな?
純子:突然なによ?
かおり:だって、好きって言われたのに、逃げちゃった。昭平のことは好きよ
でもそういうのじゃなくて、、、まだ実感もないの
グランドのはしで缶ジュースを飲む二人
修一:昨日何があったか知ってる?
(朝から我慢していて我慢できなくなったのような突然さだった)
浩介:いや別に(缶に軽く口をつけた)
修一:知りたくないの??(驚)
浩介はなんとなく想像がついた。またそれ以上わかろうとしなかった
修一:あ〜なんかお前へんだゾ。何があったんだよ?昭平となんかあったろう?
浩介:いや別に(ジュースを飲み干した)
修一:ちょっと俺にもその態度?なになに??恨みでもあんの??
浩介:ゴメン。でもなんでもないんだ…
修一:昨日なんで休んだの?
またいきなりだった
浩介:風邪だよ(覗きこむ修一から目をそらした)
修一:あやしいゾ〜。最近そういや口もきいてないよな、昭平と。
顔を近づける修一
浩介:ちょっと、やめろよ。まじで昨日は風邪ひいたんだってば!!
修一:逃げんな!いえ!!
河原では
昭平:あ〜ぁ(斜面の草の上で寝転がっていた)
上から覗きこむように麻都佳が来た
麻都佳:ねっ!
昭平:ん!?ん〜にゃ〜!!
体を起こそうとした時足を滑らし川に転落した
麻都佳:ちゃっとやだ!大丈夫!?
昭平に手を差し出す麻都佳
昭平:どうしたんだよ。今日体育祭だろ?
麻都佳:昼休みよ。
よく見ると麻都佳は体操服姿であった。昭平は麻都佳の手を握った
昭平:小峰、胸でかいな〜(目をそっと胸におとした)
バシャ〜ン!!川の中に落とされた
昭平:待てよ!何だよ急に(自力でよじ登りかけた)
麻都佳:自分の胸に手を当ててきいてみたら(怒)
昭平:いや。俺そんなに胸ないから(笑)
再び川におとされた
昭平:なんだよ。そんな怒んなよ!
麻都佳:この変態!!せっかく山本のことも考えて、来てやったのに(怒)
昭平が川から上がってきた。
昭平:わり〜わり〜(苦笑)
麻都佳は自分の持っていた薄ピンクの女の子らしいタオルを貸してやった。近く
で見るとやはりマドンナは美人だった。少ししてからマドンナから話しかけた
麻都佳:修一、ずっと野球部のマネージャーだったでしょ?私この前彼の家でね・・・
その頃、電話の二人は
純子:かおり、誰か他に好きな人でもいるの?
グランドでは
修一:浩介!!お前の好きな人って誰だ?
浩介:またまた何言い出すんだよ!・・・言えるわけないだろ、、
(顔を空に向けた)
修一:あ〜!!(驚)・・・謎は全て解けた!!・・・
お前、実は昭平のこと好きなんだろ!!
河原
昭平:何で俺に相談するの?貴公子の方がいいだろ
麻都佳:岡田君は大人っぽくて、こんなこと相談なんて・・
浩介:そんなわけないだろ!!
純子:浩介のこと好きなの?
修一:好きなんだろ!!
かおり:・・うん・・・
昭平:そりゃそうだよな〜(共感)
純子:そうだったんだ〜(驚)
浩介:待て!落ち着け!!おかしいだろ!
修一:じゃあ〜若佐のこと好きなのか?(疑)
浩介:・・・(少し悩んだような顔つき)
修一:マジ!?
浩介:・・・
時間が止まったように流れた。
その日の夜、浩介の家。昭平がやってきた。久しぶりに男二人で会った。
二人とも昨日の話には触れなかった。昔と変わらない空気があった
昭平:今日マドンナから聞いたんだけど・・・(今日聞いた話を話した)
浩介:・・・(「なんでこんな普通に僕と話せるんだろう??」)
昭平は話し続けた。
修一は一年の終りまで野球部員だった。だが春休みの練習中、大怪我をした。右
目眼底骨折。それ以来野球にかける夢を失った。怪我の後遺症については修一と
監督しか知らなかった。それを麻都佳は彼がいないときに彼の日記で知った。そ
こには「一度でいいからマウンドから投球したかった」とあった。その夢を叶え
るために昭平達にも手伝ってもらいたいということだった
話を聞き終り二人で考え込んでいたとき
浩介:かおりの返事はどうだった?(呟くようにきいた)
昭平:お前も好きなんだろ?(浩介の顔を見た)
浩介は目を昭平からそらした
昭平:・・かおりは、、お前のことが好きなんだよ(彼の目は濡れていた)!
なのにどうして自分から行かないんだ!!
昭平は浩介の襟を持った。
昭平:遠慮でもしてるつもりかよ!!
浩介:してないよ。(手を払い除けた)
昭平:じゃあなんなんだよ!!お前変わったよ。情けねえよ!、、、
あの日のお前になら負けたってしょうがないって思った俺が馬鹿みたいだよ!
(再び襟を持った)
浩介は下を向いたままだった
昭平:かおりも今のお前には・・
「かおり」と聞いた瞬間顔を上げ、浩介は力一杯昭平の手を振りきった。
浩介:だからって何が悪いんだよ!
(今までの情けない自分のしてきたこと、考えてきたことが走馬灯のように浩介の頭に映し出された。
それを払い除けるように言い放った)
昭平:「可能性はゼロじゃない」だって・・・お前がビビって逃げてんだろ!!
浩介は昭平に掴みかかった。昭平にではなく情けなかった自分に、目の前にいる
「自分」を映し出す「物」に掴みかかった。
浩介:誰が逃げてるって!!馬鹿青春野郎と同じに考えるな!!
(ムキになっている自分にふと気づいた。)
昭平:・・・そんな風に考えてたんだな・・・修一のことも俺だけでやるわ・・・
浩介:ごめ・・(「そんなつもりじゃなかったんだ。」)
昭平:邪魔して悪かったな(遮るように)
浩介立ち尽くす。昭平は浩介の家を後にする。
浩介:なんてこと言っちゃったんだろ、、(しゃがみこむ)
浩介は何もかもがうまく行かなくなっていくように感じた。あの日に戻ってやり直したかった。
その夜布団のなかで
浩介:(「あのころのかおりは僕のこと好きだったのか?」)
そんな言葉を呆然と繰り返した
かおりは昨日の昭平の真剣な表情を思い出していた。修一は今日あったことなど
知らず、浩介と昭平の仲を明日以降どう取り持つか一生懸命考えていた。昭平は
自分の部屋から見える灯のともったかおりの家のカーテンを見つめた。
演劇発表まで残り三日の今日が終ろうとしていた。
もどる